伝統的な日本家屋には職人技が随所にみられます。日本家屋の贅は職人の手仕事のなかに込められているともいえるのではないでしょうか。今ではすっかり贅沢な住空間となった日本家屋ですが、伝統工法に造詣の深い建築家や大工の皆さんにより、その良さは現代にも継承されています。今回は古民家再生を数多く手掛ける吉田建築計画事務所さんのプロジェクトをご紹介します。伝統的な住まいとモダンな暮らしが共存する、現代の贅沢な日本家屋をご覧ください。
外壁の上部は漆喰塗、下部はささらこの下見板張りで、建設当時の外観が再現されています。外観はなるべく手を加えないようにし、日本の農村の情景を将来へつなげられるように配慮したそうです。
玄関には広く取られた土間がみられます。土間は外でも内でもない空間で、かつては台所や作業場、納屋など多目的な用途に使われていました。現代の土間はコンクリートや珪藻土などで仕上げることが多いのですが、こちらは三和土(たたき)の土間とし、伝統的に仕上げています。
和室には広縁があり、庭からの柔らかい光が入ります。20年ほど使われていなかったという古民家ですが、風を通すなどのメンテナンスはきちんとなされていたそうで、大切にされていた様子がうかがえます。
障子の建具も建設当時の佇まいに修復しています。欄間は新設ですが、古い建具に調和するデザインとなっています。真ん中に窓のある額入り障子は、昭和初期の典型的な障子です。今では手に入れることが難しいと思われる木材や細かな職人技が、建具の随所にうかがえます。
和室と庭の間には、広縁がまわっています。外と内を緩くつなぐ広縁は日本家屋ならではの空間です。かつて、ここでご近所さんと談笑していた様子がしのばれます。広縁は夏には深いひさしとなって日差しを遮り、冬には二重窓として寒気を遮る役割も果たします。
ダイニングルームはキッチンと和室の間にあります。ヨーロッパのアンティーク家具をしつらえた和洋折衷の空間からは、クラシックホテルのような落ち着きが感じられます。年月を経たものどうしでしか出せない、居心地の良さがうかがえるダイニングルームです。
修復した階段が目を引くキッチンです。キッチンは利便性を追求するとデザインもモダンになりがちですが、和の住空間にもなじむタモ無垢材を面材に用いているので、他の居室との一体感も保たれています。